東京高等裁判所 昭和33年(ラ)569号・昭33年(ラ)573号 決定
一、一件記録によれば本件競落の目的である東京都葛飾区金町四丁目千五百三十五番の一、宅地二百三十坪四合六勺(以下本件物件という)は他の物件と共に昭和三十二年六月四日債権者山木貞次郎より責務者兼物件所有者である本件抗告人株式会社辻忠商店外一名に対し抵当権実行による競売の申立がなされたものであるところ、本件物件については他の物件と共に当時既に債権者株式会社長谷川商店外一名の申立により強制競売開始決定がなされていたので(東京地方裁判所昭和三十一年(ヌ)第七二四号事件)右山木貞次郎の競売申立は昭和三十二年六月六日右第七二四号事件の執行記録に添附せられその後同年九月十日右第七二四号事件の強制競売申立は取下げられたこと、及び本件物件については東京法務局葛飾出張所同年二月二日受付第二、一〇三号を以て前記株式会社長谷川商店外一名からの競売申立の登記がなされていることを各認めることができる。
抗告人株式会社辻忠商店は本件物件について債権者山木貞次郎からの前記競売申立についてその登記がなされていないのは不当であるというけれども本件物件については、右の通り山木貞次郎からの競売申立当時既に他の債権者の申立により強制競売開始決定がなされてゐたので、抵当権実行による競売申立に類推適用せられるべき民事訴訟法第六百四十五条により、右山木の競売申立につき更に開始決定をなすことは許されず、この申立は、さきに開始決定のあつた右第七二四号事件の執行記録に添附すべきものであるから、かかる競売申立につき執行裁判所が同法第六百五十一条による登記の嘱託をなすこともまた許されないものと解すべきである。そして、さきに開始決定のなされた競売手続が申立の取下により終了した場合には、その事件の記録に添附せられた后の申立は開始決定を受けた効力を生ずるのであるが、この場合においても、競売申立の登記を更めてしなをす必要はなく、さきの競売申立の登記を后の競売手続の為に転用できるものと解するのが相当である。けだし、このさきの競売申立の登記の存することにより、第三者は爾後の競売申立の有無を調査しこれを知る機会を与えられてゐるものと解することができるからである。従つて、本件の場合、後になされた前記山木貞次郎の競売申立についてその登記が存しないとしても、不当に第三者の利益を害するものということはできない。(中略)
二、次に、抗告人多田実治は、本件物件については債権者山木貞次郎からの前記競売申立以前である昭和三十二年四月十日同抗告人の為にその主張の如き所有権移転請求権保全の仮登記の移転登記がなされ且昭和三十三年九月二十四日右仮登記の本登記を了したのであるから、このような事実関係の下においては本件物件に対する競落は許されないと主張する。よつて、按ずるに、抵当権実行による競売手続に類推適用があるものと解すべき民事訴訟法第六百四十五条によれば、既に競売開始決定のなされた不動産につき第二の競売申立があつたときは、その第二の申立を第一の申立の執行記録に添附することにより配当要求の効力を生じ、又、第一の申出が取下げられたときは、右第二の申立につき競売開始決定を受けた効力を生ずることは明らかである。そして、この添附による開始決定の効力として生ずる競売物件に対する差押の効果はその添附の時に生ずるものと解するを相当とし、従つて、その以後競売物件の所有者はその処分を禁止せられ、これを処分するも第二の競売申立債権者に対抗できないのである。又、競売物件について競売申立の登記が存する以上、たといそれが第一の競売申立に関するものであつても、これにより第三者は第一、第二の競売申立を知りうる機会を与えられてゐるわけであるから、第一の競売手続が申立の取下により終了した場合であつても、右競売申立の登記後であつて且第二の競売申立につき前記法条による差押の効力の生じた時、すなわち添附の時以後においては、第三者は競売物件について権利を取得してもこれを以て第二の競売申立債権者に対抗できないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、同抗告人は、本件物件について前記競売申立の登記がなされた日及び前記山木貞次郎の競売の申立が別件の執行記録に添附された日の后である昭和三十三年九月二十四日同月二十二日の代物弁済を原因とする所有権取得の本登記を経由したというのであるから、その所有権取得を以つて右競売申立債権者山木貞次郎に対抗できない関係にあることは前段の説明により明らかである。同抗告人提出の登記簿謄本によれば、同抗告人の右所有権取得の本登記は昭和二十九年六月八日なされた仮登記に基くものであることを認めうるけれども、仮登記の効力は本登記の順位を保全することにあつて、所有権取得の事実を仮登記の日に遡つて対抗できる効力を有するものではないから、右仮登記の存することは前記判断の妨げとなるものではない。
(奥田 岸上 下関)